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ポケモンSVはなぜ名作になったか? - 3 -

ここまで長々と、いや本当に長々と語ってきたが、全てはここ、SVの面白さがどうやって形作られたかを説明するためだった。
ここだけ読めば済むぐらいにはおさらいもしたいのだけど、それ込みでどれだけ簡潔にまとめられるか・・・

今までのシナリオの問題点

ポケモンにはシナリオが必要不可欠
「ユーザー=主人公」の形式では多様なユーザーが同じようにシナリオに没入できない
容量的な制約から長大なシナリオ・多くのマップ・個別のキャラクター、イベントやアクションは作れない
GOやピカブイでも大きな反響を得た、万人が楽しめる要素「ゲット」を第一義とした方向性としてはオープンワールドを目指したいが、
自由な進路に対して特定の道筋を半強制するシナリオとは相性が悪い

一見するとそれ自体が最大のコンテンツとなる完全オープンワールドのSVではシナリオを廃止してしまったほうがいいようにも思える。
しかしながら、SVではこれらの要請を全て解決するシナリオを用意することに成功しているのだ。

義務からの解放

何をするのもあなたの自由。

今回最も強調されているのは、あなただけの宝探しというコンセプトだ。
なんたって全ての攻略順は自由だし、することを強制されてもいない。有志の検証によるとシナリオを全く進めないでも図鑑はほぼ埋まるらしい。
オープンワールドによって提供される究極のユーザー体験優先型ゲームによって既存ユーザーは自分だけの冒険を手にすることに成功した。

完成された「カメラマン式主人公」

これまでのシナリオの反省として、メインシナリオ(主人公)とサブシナリオ(脇役)の濃淡がアンバランスで、
カメラマンとは言い条、主人公自身にもやること(試練・ジム攻略)が課されており、完成度の高いサブシナリオに対してやらされ感の高いメインシナリオが好評を得ることはなかった。

繰り返すが、今作ではユーザーには何の義務も課されていない。
これは換言すると「メインシナリオが存在しない」ということである。
今まで絶対に外せないと考えられていた「ジムによるチュートリアル」までもマルチシナリオの1つという1モジュールに落とし込むことにより、
メインとサブの境界を完全に取り払いユーザー毎にメインシナリオを選択させる形式を取ったのだ。
これによる恩恵は計り知れないほど大きく、SVの成功の秘訣と言っていいだろう。
次からはその3つのマルチシナリオについて個別に見ていこう。

チャンピオンロード -ゲームとして、シナリオとしての基礎-

宝物を見つけ出す物語

まず従来必須と考えられていたチュートリアルとしてのジム巡り。
多様なユーザー・新規ユーザーに対応するためにタイプ相性の案内は必須である反面、歴代のユーザーには煩雑に感じられることもあり、この板挟みには長年苦しめられてきた。
これをあえてサブシナリオまで引き下げることで、ユーザーの自由意思で攻略するというスタイルを形成した。つまりはやらされ感の排除である。

シナリオそのものは実にシンプルで、強くなってチャンピオンになる、それだけ。
ここでサブ主人公となるネモはストーリー進行中には自分のことをあまり語らず、主人公を応援する先輩として、立ちはだかるライバルとして強さへの筋道を示してくれる。
ポケモンバトルの面白さや奥深さを伝える上で、ネモというキャラクターは秀逸そのものと言えるだろう。
内容的・構造的にシンプルでありながら、終盤からは強さゆえの孤独というテーマも浮かび上がり、それまでの半ばギャグ路線との対比が際立ってくる。
初めての試みでありながら非常によくまとまっており、個人的には最も高く評価しているシナリオ。

スターダスト★ストリート -舞台として、テーマとしての学校-

宝物を分かち合う物語

反面こちらは謎の組織スター団との抗争がテーマ。
ストーリーの中で明かされていく彼らの目的やレゾンデートルは見た目に反して重々しく、連続した悲劇の果てにどう救いが訪れるのか、最後まで息をつかせぬ大作となっている。

シナリオの中で唯一"善悪"に触れる内容ではあるが最近の流行りにしたがって物事の一面だけを見ないようにという訓示的な内容。
イジメ・不登校という問題を取り上げながらも全体としてはコミカルかつ希望的にまとめており、あくまで仲間や友情の大切さにスポットライトを当てている。
真っ向から立ち向かうというよりは精神的な解決策を提示し、そして最終的には大人が丸く収めるということで問題に対してはやや楽観的な回答ではある。
不良呼ばわりされているが仲間想いのボスたち、味方と見せかけて黒幕のボタン、黒幕説がささやかれたがまさかのパートナー枠のクラベル、と予想を裏切る展開が続き、
最後まで結末が読めないまま駆け抜けるためかなり歯ごたえのあるシナリオである。*1

レジェンドルート -友達として、生き物としてのポケモン-

宝物を守り抜く物語

そして事実上のメインシナリオとなるこちらは人とポケモンとの関りを美しく描いている。
ポケモンがいる世界とは?」についてはこれまでも多くの物語が紡がれてきたが、今作においてはもう一つ違った意味を持ってくる。
オープンワールドによって野生のポケモンの暮らしを描けるようになったことで、「バトルの相棒」「便利な道具」そして何よりも「大切な隣人」としてのポケモンを描かなければならなかったのだ。
前二つがそれぞれ「自分」「他者」に向き合う物語だと言い換えられるならば、ポケモン」と向き合うこのシナリオがメインに据えられるのは当然の帰結だろう。

話の流れとしては孤独なペパーが唯一の家族であるマフィティフの治療のため主人公を巻き込んで冒険を繰り広げるというもの。
これまでライバル(1gen, 2gen)やN(5gen)などで語られてきたポケモンとの向き合い方をハートウォーミングに伝えている。
ポケモンという究極のキャラゲーでこの路線は絶対に外せない。このシナリオがふれあい要素であるキャンプと密接に関係しているのも肯けるだろう。

ここではペパーとマフィティフ、あるいは主人公とミラコラの関係に目が行きがちだが、人とポケモンという関係もここに含まれていることに注意したい。
ブックに記された数々の伝説はパルデア文化すなわち今作におけるポケモンの立ち位置を示し、世界観の構築に一役買っている。
構成要素の一つ一つが最終シナリオへの布石となっており、枝葉にいくつかの謎は残したまま、それでも本筋は後味良く終わらせている。

ザ・ホームウェイ -作品としてのクライマックス-

何もかもが急転直下。

ゲーム開始からずっと中心に会った大穴、エリアゼロが満を持してそのヴェールを脱ぐ最終章。
これまでのシナリオで友達になった3人と力を合わせ最深部へ向かう。

ポケモンシナリオの常識、そしてポケモンデザインの常識を覆すここでの出来事はユーザーをこれまでの温かみに満ちたシナリオから一気に大穴の底へ叩き落す。
XY・剣盾で失敗していた危機感の創出がここにきて成就したことに触れなければならない。
これらの作品で問題だったのは「いくつもの謎を残したまま、主人公に最終局面の訪れを予感させずに急に盛り込んだこと」であった。
今作では謎の提示が非常に巧妙で、博士の登場のさせ方によってユーザーの意識をコントロールすることに成功している。
序盤で「今は会えない」とだけ伝え、各シナリオを進めていくうちに「いつかどこかで逢うのだろう」と一度意識の埒外へ追いやってしまい、
ここにきて「まだ会ってない・・・?」となることで一気に緊張感が生まれる。
また、SMで成功した事前情報の重要さもここで活かされており、散々アピールしていたエリアゼロはここに来てようやく到達できる。
パルデア島内を巡りつくし、あらゆるポケモンを見てきたユーザーはこれまでとは明らかに違うパラドックスポケモンから異質な空気を感じ取る。
事前にパラドックスポケモンそのものはレジェンドルートで見せているのが実に上手い。
「あれが何種類もこんなにたくさん!?」という、中ボスが終盤で雑魚敵として再エンカウントする熱い展開がポケモンでできるのは中々珍しい。
オモダカのキラフロルがエリアゼロ産と明言されているのも箔付けになっている。過去作で四天王の切り札が野生で出現するパターンてあっただろうか。
ストーリーの盛り上げ方も素晴らしく、ムービーや特殊コマンドでこの作品のゴールともいえるミラコラの再起を演出している。
こういった容量を食う演出を、中盤の切り替えで浪費することなく、それぞれのラストシーンで使っている、使えるようになっているのも分割シナリオのメリットと言えるだろう。

総括

このように、3つの分割シナリオそれを束ねる最終シナリオによって歴代シリーズが積み重ねてきた数々の問題を解消し、
それに適したシナリオを構成したことがSVのシナリオの成功の秘訣である。

この一言のために大変な回り道をした気もするが、無駄な道などないのだと語ってくれているのもまたSVだ。
4つのシナリオには「」を意味する言葉がそれぞれ違った単語で使われており、
人が進むべき道とは一つではなく、長さも、方向も、景色もうねりも傾きも、それぞれ違って当たり前であることを示唆している。
この長講釈も、SVのシナリオの素晴らしさを語る楽しさという自分だけの宝物を手にするためのものであるわけだから、多少の寄り道には目をつむって欲しい。
サンドイッチ片手に読むならば、まぁフランスパン1本食べきるぐらいでちょうどいいんじゃなかろうか。

*1:もちろん布石はあるしメタ的な先読みも可能なのだが、あくまで主人公や、それが通じない新規・低年齢ユーザーの目線の話。