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夢の話の続き

そこまで喋ってようやく彼女は僕を気にかけてくれた。
喋れないの?という一言をずいぶん待たされたものだ。
ここぞとばかりにぶんぶん頷いたが無駄だった。
ますます怪訝な顔をして、どうやって入ってきたのか、池で何をするつもりだったのか訊ねてきた。本当に天才なのだろうか。
結局彼女が"門"で用を済ませたら外まで送ってくれることになった。面倒見は意外といい。


"門"とは何かというと、池の奥にある壁のことだ。
僕には壁にしか見えなかったが、よく見ると細かい彫刻が施されていて、壁の両端の柱には番のようなものも見える。
門というより扉だろうか。この扉を開くのが研究所の最終目的らしい。
彼女がその彫刻と書類をつき合わせてなにやら確認している間、僕も後ろに立って待っていた。
ふと足元のタイルに目をやると、門と同じような彫刻が施されている。
拾い上げるとこんな模様だった。

タイルというよりパネルのようで厚みは1cmぐらい、大きさは手のひらぐらい。材質は壁などと同じ緑黒の石。


と、彼女が再び怒鳴った。「何をしている!」
僕は驚いてパネルを取り落とし、落ちたパネルは真ん中の線に沿って割れてしまった。下半分も真ん中辺りで砕けている。
パネルの砕け散った瞬間の彼女の顔は悲愴そのもので、僕を叱責する気力すら失っていた。
さすがに軽率だったと思ったがどうしようもないのでそのまま破片を拾い集め、"読み上げる"。
「きのこ」
驚くことも出来ないほど自然に、僕はパネルの絵を読んだ。
するとパネルの破片がそれぞれ青白く光り出し、見る間に一つのパネルへと復元された。
「何?何をしたの?」と彼女が僕の疑問を口にすると、僕はよくわからない言語でこう答えた。
「言葉が完全なら、そのものも完全である」
何を言っているのかわからなかったが、同時にそれが絶対的な真実であるとも思えた。
なおも光りを放つパネルから顔を上げると、門の一部も同じように光っている。
パネルをそこにはめ込むと光は門全体から発せられるようになった。
「だから、ここも"開く"」
それが合言葉であったかのように、門は眩い光とともに開き始める。
彼女と、周囲の研究員と、そして僕を唖然とさせながら広間は光に満ちていく。


(ここで一度目覚める)


再びこの世界に戻ってきたとき、場面は大きく変わっていた。
遺跡とはやや違う構造だが、舗装された地下道を例の天才研究員と歩いていた。
周囲の人間はすれ違いざまに「おめでとう」などと声をかけてくる。
あの事件により研究所の目的は達成され、次の段階へと移行したのだそうだ。
「それで、あれは、というか、僕は、何なんですか?」
「君は、僕の研究成果なんだ」といかにも成功者という風情のイケメン研究員は教えてくれた。
これまでは遺跡のあの文字を解読することが当面の目標だったのだが、彼のやり方はずば抜けていた。
当時の記憶を持った媒介を蘇生させ、自分の命令を理解・実行する人形として改造できれば一足飛びに解明が進むだろう、というのが彼の研究だった。
僕の素体は当時の死体だかアンドロイドだかで、あの絵文字を読む「知識」を有している。
そこに現代人の「魂」を詰め込んで、古代語を行使し、現代語を理解できる人形を作ろうとしたのだ。
理論上完璧ではあったのだが、やはり魂の定着は不安定で、思うような形で成功しなかった。
魂が表層に発現せず、植物人間のような状態になった僕を、彼は遺跡の内部を連れ回すことで刺激しようとした。
ところが少し目を離した隙に独りでに歩いていってしまい、探している最中にあの事件が起こった。
「あの場に居られなかったことだけは心残りだな」と苦笑する彼の顔はむしろ晴れやかだった。
僕が無意識に門へ向かい、門を見たことで魂が目覚めたところまではまさしく彼の思惑通りであったが、
その目覚めも不完全なもので、古代・現代の知識が交錯し、言語能力を失った状態で目覚めた。
しかし、女研究員との対話により次第に言語能力を取り戻していき、"門の復元を行う"という動作を無意識に行ったことで完全に覚醒した。
「魂は、絶対に必要だったんだ」
魂がなければ言葉は扱えない。当時の知識だけを得ても、そこに魂を込められなければ何も起こらない。
今ならそのことが理解できた。魂と言葉と真実が一繋がりになっていないといけないのだ。
これで僕に関する謎は完全に解けたと言っていいだろう。真っ先に門のそばに寄ろうとしたのも必然だったのか。
しかし、彼の研究が憎いと愚痴っていた相手がその研究成果だったとは、彼女も相当な道化だ。


「これからどこへ?」
「門が開いたからね。次のことをする。さぁ、乗って」
10分ほど歩いて到着した地下鉄の駅に一人乗りのカプセルのようなものが停まっている。
「実はここでお別れなんだ。短い間だったけどね。乗っていけば後は送ってもらえるし、自分が何をすべきかもわかるはずだよ」
まるで見当も付かないが、どうも彼の言うことは正しいような気がする。そう操られているのだろうか。
仰向けになるように乗り込んで彼に手を振ると音もなくカプセルは発進した。
しばらくトンネルの中で等間隔に過ぎ去っていく明かりを眺めていたが、
トンネルが終わりまぶしさに目が慣れると、思いのほかいつも通りの青空が見えた。この青さはいつの時代も同じということか。


駅に着くとカプセルが自動的に開いた。
降りるとスーツ姿の男が待っていた。付いていくと今度は車だ。
車高が低くスポーツカーのようだが全体的に丸い。白とオレンジを基調としたカラーリングは未来っぽさを感じさせる。
後部座席に乗せられ線路沿いを走り続ける。周囲に建物はあるが人や車があまりいない。
時たま僕達と反対方向へ向かっていくのを見かけるが、それぞれ大変な大荷物だ。
進行方向にだけ非常に大きな施設が見える。どれだけ遠いのか、まったく近づいている気がしない。
「あそこは何ですか?人があまり居ませんがこの辺りは?」
「聞いてないのか?あれは宇宙基地、この辺の住民には避難指示が出ている」
「一体何からの避難なんですか?僕達はそれに近づいているってことですか?」
「おかしいな、お前には見えると聞いているんだが。わからないか、空」
なんのことだと見上げてみると、急に意識が他所へ飛んだ。
地球近くの宇宙空間に、大きな石とそれにへばりついた粘液のようなものが見える。
ハッと意識を戻すと自分はやはり車内にいる。
「あれですか」
「見えたか。それだ」
「あれを僕がどうにかするんですか?」
「出来ると聞いている。俺はロケットまでお前を送り届けるだけでそれ以上はわからない」
「でも、出来ないかもしれない。だから皆逃げている」
「俺もお前を送ったらとっとと逃げたいよ。・・・まぁ、逃げても無駄かもしれないそうだが」
「そうですか・・・。そうですね」


と、ここまで。
一旦目が覚めたことで逆にシナリオとしての完成度が高まったね。しっかり謎を解明してくれた。
ナチュラルに僕が人間やめてる。
思ったより長くなった。見たもの全部書き上げただけだからな。
前にもあったけど、夢の中の意味不明な図ってなんなんだろう。強烈な印象はあるけどそれ自体の意味はまるでわからない。